練習 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

環境建築デザイン

2014.7.25

環境のなかに「かみさま」をみた

設計課題「「かみさま」のいる環境住宅群をつくる」の作品発表+講評会が開催されました。

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環境建築デザイン、最終講義は、3Q中ずっと取り組んできた設計課題の発表会です。お題は「「かみさま」のいる環境住宅群をつくる」です。「環境住宅群」は可能な限り自然の力を活用して、良好な室内環境を生み出しうる、複数の住宅のこと。特に何の違和感もありません。異彩を放つのが「かみさま」です。風景を目の間にして、普段はなんてことないのに時折「はっ」とすることがあります。こんな経験をここでは「「かみさま」がおりてきた」としています。こういう非日常的な経験があるからこそ、日常に埋没することなく、風景や環境をかけがえのないものとして感じるわけです。日本の神社なんかもそういう感覚を忘れないための記憶装置だと考えられます。この課題のミソはまさにそれです。「かみさま」を感じうるような空間装置を建築に挿入することで、建築環境工学的な快適性を超えた、環境をかけがえのないものと思える場所をつくることが大目的となります。しかし、学生諸君は普段そんなことを考えてもいないわけで、この「かみさま」をどう作るかに、それぞれ大格闘してきました。今日はその苦闘の成果のお披露目会です。果たして「かみさま」をおろすことはできたのでしょうか。


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最優秀作品の模型とパネル

最優秀作品です。土佐山田段丘下の水路とそれを挟む鬱蒼とした森。ここを舞台に環境住宅群を形成しています。住居部分は森のなか。柱にささえらて宙に浮かび、外部からはほぼ見えません。下には水路が流れます。この薄暗い空間の質に「かみさま」を見たのこと。床の裂け目からは水路が鈍く光り、その一方で見上げると遥か上の空中に高屋根が浮かびます。

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最優秀作品の模型詳細

高屋根があるものの、住宅との隙間から採光がとれます。実は南面大開口ならず、上方大開口をとり、この高屋根で日射取得のコントロールをしています。外部からはこの蛇行した高屋根だけがふわふわと浮かび、何ともシュールな風景が展開します。その情景もまた「かみさま」を暗示するわけです。

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独自性あふれる案をプレゼンする学生

「かみさま」の捉え方はひとそれぞれ。段々畑のなかに突如あらわれる、「金魚が群れ泳ぐ大水槽=かみさま」などといった、独自性あふれすぎる解釈なども飛び出します。

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独自性あふれる案へコメントを

ただ、この課題、「かみさま」だけに集中していると、求めるべき良好な室内環境を導く計画が、なおざりになりかねません。建築環境工学と、風景への非日常的応答(=「かみさま」の追求)の両立が求められます。それがこの課題の面白くも難しいところです。

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最優秀案作品解説

苦闘の末に、そんな両立を独自の工夫を重ねてなしとげたときは、おのずと発表にも溌剌さと力がこもります。それぞれが懸命に考えてきたなか、自分のアイデアとほかのアイデアを比較しながら、いろいろ思いをめぐらせます。

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講評の一場面

設計課題は自分の計画をつくり切ることが大切なことは言うまでもないですが、講評会で、他のひとの案とそれに対する意見をしっかり聞き、そこから、これまでになかった発想やヒントを得て、次の飛躍へと結びつけていくことが必要不可欠です。

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作品発表の一コマ

今回は講義期間全てを通して1課題をこなすという長丁場でした。ひとつの完成へと作品を導くためにさまざまなステップを経ています。まずは即日設計。自分のアイデアを速攻で書き上げるもの。1時限目から5時限目まで、ぶっとうしで設計をやります。迷う間さえないこの設計では粗くても自分のやりたい本音やアイデアが表出するものです。

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模型をながめたおす

次に中間発表では、この即日設計を、しっかりとした建築へと変換、整理していきます。未整理のアイデアを建築としてまとめあげていきます。その後、幾度かの草案批評を重ねてようやく完成へと導きます。しっかりとプレゼンテーションされたA1サイズのプレゼンボードと、模型を作成します。

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作品発表の一コマ

実はこの設計課題、4年間こなしてきた数ある演習の最終課題となります。それもあり、成果物も卒業制作を見越したものを要求しています。しかし、そういう心構えで設計するのは今回が初。時間配分がうまくいかず終わることもあります。また、課題そのものも相当に難しく、そう簡単によい建築として収斂させることが叶いません。しかし、ともすれば矛盾してしまいそうな要件をどうにか両立させて昇華し、しかも期限を過ぎずにまとめきるというのは、建築設計の宿命です。この講義でその宿命の重さと楽しさを知ってもらえたらと願っています。

 さて「かみさま」というどうにもヘンテコに思える要件を具現化しなければいけないこの課題。その真意はどこにあるのでしょう。自然力を活かして良好な温熱環境を得る。これは地球環境が悪化した昨今、疑う余地もない至上命題です。しかし、これを完備すればするほど、太陽や風、もろもろの自然が「体のよい空調装置」のように錯覚し、自然を畏怖し大切に思う気持ちが希薄になってしまいがちです。自然は完全に制御できるわけでもなく、またそんな存在以上に怖く尊いものです。本当に環境を考えるならば、環境をかけがえのないものとして感じることが必要不可欠だと考えます。それゆえに「かみさま」なのです。あなたは環境のなかに「かみさま」を見つけることができるでしょうか?