椛坂高架橋

〜管理の手間が特に省けるコンクリート充腹アーチ橋〜

輿石 正己


1. はじめに

橋梁は、美しく、そしてその機能を長く保持して欲しい土木構造物の代表と考えられる。しかしながら、現実には期待に反して、完成後数年で補修・補強を必要とする箇所が出始める例が多々見られる。。特に、伸縮装置、支承、排水装置等の橋梁付属物に不具合が発生することがしばしばある。高速道路の渋滞を起こしている原因の一つにこれらの補修工事があるため、一般の人々には橋梁がその地方のシンボルだとか、アクセントどころではなく、なんとも手間のかかる代物かと思われる方々もおられるであろう。
ここでは、今後21世紀にかけてますます必要となるであろう維持管理に関して、最も手間がかからないと考えられるコンクリート充腹アーチ橋について紹介する。

  

  

2. 新しい橋梁の設計方針と構造形式

耐久性に優れた橋梁を設計するには、過去に建設された橋梁から耐久性に優れ、かつ現代にマッチした構造形式を模索することが最善であると思われる。そこで、耐久性の高い橋梁は、フランスのニームにあるガール水道橋や我が国の長崎にある眼鏡橋に代表されるアーチ形式であることから、アーチ橋において、維持管理を最小限にする構造形式を探し出すことが最も合理的なのではないだろうか。
そこで、設計方針として、以下の2点を目的とした。
   @ 伸縮装置、支承、排水装置等の橋梁付属物はできるだけ省略する。
   A アーチ橋における部材は、必要最小限に限定する。
この条件を満足できるように、十分検討した結果、構造形式としてコンクリート充腹アーチ橋がその解答の一つであるとの結論に達した。
コンクリート充腹アーチ橋は、現在道路橋として4橋建設されているが、その代表例として1986年に架設された椛坂高架橋の一般図を図−1に示す。椛坂高架橋は、橋長L=224m、橋脚高h=約30m、アーチスパンl=25m、アーチライズf=7.0mのRC9径間連続充腹式アーチ橋である。

  

図−1  椛坂高架橋  一般図 
(図をクリックすると、画面全体に表示されます)

  

  

  

3. コンクリート充腹アーチ橋の特徴

本構造形式の特徴として以下の点が挙げられる。
 @橋梁の上下部工は一体構造とする。
 A アーチリブと側壁を一体化させ、砂質土を載せて転圧し道路としての路床を構成し、その上に土工部と同一の舗装を行って、活荷重を受け持たせている。したがって、通常活荷重を支持する橋梁床版および鉛直材は設けない。
 B橋梁床版の省略に伴い、支承、伸縮装置は省略できる。
 C橋梁主部材(アーチリブ)の温度変化による橋軸方向の伸縮は、両端の橋台でこれを拘束する。
 D路面排水は土工部と同様に取り扱うことができる排水構造とする。

  

  

  

4. 設計上の留意点

4.1アーチリブの形状に関して

アーチリブの形状は、アーチリブと側壁に発生する応力状態を十分検討した上で定めるのが望ましい。今回は、図−2に示す単心円と三心円を比較した結果、大きな差異はなかったが、三心円のアーチ形状の場合、アーチリブが全断面圧縮状態となるとともに側壁からの応力発生の影響を軽減できるため、この形状を採用した。

図−2  単心円、三心円のアーチ形状 

  

  

4.2側壁およびアーチリブの相互拘束に関して
 アーチリブは側壁により拘束されており、側壁に作用する横荷重(土圧等)による曲げモーメント、鉛直力がアーチリブに与える面外方向の影響を把握する必要がある。また、側壁にはアーチリブの面内力(軸力、曲げモーメント、せん断力)が作用するため、予期せぬ大きな主応力が発生することも考えられる。(図−3参照のこと)
これらの問題点を解明するため、本橋では、アーチリブの面外骨組み解析を行うと伴に、側壁のFEM解析により安全性を確認している。

図−3  側壁・アーチリブ相互構造系

    

4.3スプリンキング部の検討

RC充腹式アーチにおいては、温度変化およびコンクリートの乾燥収縮による応力がスプリンキング部に集中し、ひびわれの発生原因となることがしばしば見られる。ここでは、特にアーチリブの温度変化に対する側壁の拘束効果に注目し、側壁の目地を変化させた場合のスプリンキング部周辺の応力状態を検討した。
表−1に示すように、スプリンキング部の側壁に切欠きを設け、垂直目地をスプリンキング部およびクラウン部に設けたTYPE-4では、クラウン部、スプリンキング部ともに引張応力が発生しないため、ひびわれの発生を防止できると考えられる。

  

 表−1  スプリンギング部側壁に発生する圧縮及び引張応力表 

 

TYPE-1

TYPE-2

TYPE-3

TYPE-4

TYPE-5
構造図

クラウン部主応力
1.最大圧縮応力
σ
D=6.0 σ=5.3
σ=0.1 σ=12.9
買ミ=σ+σ=-0.1+12.9
           =12.8
2.最大引張応力
σ=-0.1  σT=-12.9
買ミ=σ+σ
   =-0.1-12.9=-13.0
1.最大圧縮応力
σ
D=7.9 σ=6.4
σ=3.3 σ=14.2
買ミ=3.3+14.2=17.5
2.最大引張応力
σ=-3.4  σT=-14.2
買ミ=-3.4-14.2=-17.6
1.最大圧縮応力
σ
D=5.8 σ=6.2
σ=0.6 σ=11.1
買ミ=5.8+6.2=12.0
2.最大引張応力
σ=0.6  σT=-11.1
買ミ=0.6-11.1=-10.5
1.最大圧縮応力
σ
D=7.0 σ=4.2
買ミ=7.0+4.2=11.2
2.最大引張応力
σ=3.6  σT=12.7
買ミ=-3.6-12.7=16.3
1.最大圧縮応力
σ
D=6.5 σ=6.1
買ミ=6.5+6.1=12.6
2.最大引張応力
σ=-0.3 σT=-11.7
買ミ=-0.3-11.7=-12.0
スプリンギング部主応力
1.最大圧縮応力
σ
D=35.6 σ=93.4
買ミ=σ+σ=35.6+93.4
          =129.0
2.最大引張応力
σ=35.6  σT=-93.4
買ミ=σ+σ
    =35.6-93.4=-57.5
1.最大圧縮応力
σ
D=35.9 σ=94.5
σ=42.9 σ=83.6
買ミ=35.9+94.5=130.4
2.最大引張応力
σ=35.6  σT=-94.5
買ミ=35.9-94.5=-58.6
1.最大圧縮応力
σ
D=12.8 σ=12.0
買ミ=12.8+12.0=24.8
2.最大引張応力
σ=10.6  σT=-10.6
買ミ=10.6-10.6=0.0
A部の応力
買ミ=σD+σT=21.7-46.7=-25.0
1.最大圧縮応力
σ
D=12.8 σ=11.9
買ミ=12.8+11.9=24.7
2.最大引張応力
σ=10.8  σT=-10.7
買ミ=10.8-10.7=0.1

(引張応力は生じない)

1.最大圧縮応力
σ
D=52.5 σ=100.0
買ミ=52.5+100.0=152.5
2.最大引張応力
σ=52.5  σT=-100.0
買ミ=52.5+100.0=-47.5
概要
σD:側壁自重(単位:kg/cu
σT:温度変化(±15℃)

   

   

4.4排水設備に関して

橋面の排水に関しては、美観上の配慮より排水ます、横引き菅を使用せず、図−4に示すように路肩での円形水路(ロールドガッタ)を使用した。また、橋面より中詰土への浸透水に関しては、図−5に示すように橋脚位置での縦排水菅により排水を行った。

図−4  排水装置(1) 

図−5  排水装置(2)

   

   

  

5.おわりに

この橋梁には、交通規制を行って路面から作業を行う伸縮装置、床版などの補修工事が必要ない。また、アーチリブの断面が地震時で決定されるため、常時の設計荷重の約3.3倍の活荷重が作用してようやく許容応力度に達する程度であり、十分な耐久性があると考えられる。
また、連続アーチ形式は、景観的にも美しく、周辺環境と調和した親しみのある空間を作り出すことができるため、今後の数多くの採用が期待される構造形式であろう。

  


参考文献
1)充腹式連続アーチ橋の計画と設計、−山陽自動車道 椛坂高架橋−、橋梁、1985年9月
2)充腹式連続アーチ橋の設計と施工、橋梁と基礎、1988年3月
3) コンクリート充腹アーチ橋梁、橋梁と基礎、1991年8月


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